空き家を貸すために知っておきたいこと、できること

不動産を相続、現時点では自分はもちろん、親族の誰も住む予定がないものの、いずれ帰るつもりはある、あるいは売るまでの決断はできないなどといった場合には管理を委託するか、貸すかのいずれかを選択することになる。ここでは貸そうと思った時に知っておきたいこと、できることをまとめた。

◎売るより貸すほうが難しい場合がある

売却を考える場合にも最初に考えるべきは不動産市場が存在しているかどうかを調べることと書いた。賃貸する場合にも基本は同じである。そして、売買よりもさらに市場が成立していないことがあるのが賃貸だ。

現在、地方に空き家を相続した人は大学進学などで都市に出て、そのまま都市に居住し続けている人が多いと思う。初めて賃貸住宅を借りたのは不動産ポータル経由。若いうちは予算の関係で比べられるほどの選択肢はなかったかもしれないが、ある程度の年齢以上になると自分の条件からあれこれ比べて住まいを選んできたのではないかと思う。

だが、都市以外ではそうした自由に選べる賃貸市場は成立していない地域が大半である。ある程度の人口規模の都市で不動産ポータルにも一定数の賃貸住宅が掲載されているとしても、その内容を見ると学生、若い社会人向けのワンルーム、家を買う前の新婚カップルを意識したであろう2DKくらいしか掲載されていないのが実態だ。

さらに地方に行くと市場どころか、賃貸住宅もない地域も少なくない。移住者を呼びこみたくとも物件がないという地域である。

また、不動産会社に空き家の売却を依頼したが、全く動いてもらえなかったという話をよく聞く。空き家は取引価格が安く、それに応じて仲介手数料が安いからだというが、賃貸仲介はそれ以上に安い。そもそも市場がない上に、仲介手数料がとても安いとしたら不動産会社が喜んで客付けしてくれることはあまりないだろう。

そうしたことを考えると、地域によっては貸すほうが難しいことがある。まずはそれを意識、自分の相続した物件がどこにあるかを冷静に見極めたい。

調べ方としては売買市場の有無を探す時同様に不動産ポータルを見ることから始めよう。物件の数はもちろん、どのような物件が出ているか、ワンルーム、2DK以外もある市場なのかを見て行こう。

売買の場合には不動産ポータル以外に国土交通省の不動産取引価格情報検索が参考になったが、賃貸の場合にはこうした公的な情報はない。多少、公的な取引動向としては公益社団法人東日本不動産流通機構、同近畿圏不動産流通機構、公益財団法人不動産流通推進センターが出している統計があるが、市単位で動向と言われてもあまり役には立たない。

◎空き家バンク、不動産会社も調べてみよう

都市で市場があると思われた場合以外で続いて調べるべきは空き家バンクだ。空き家バンクというと売買を想像する人が多いようだが、実は貸したい場合にも掲載できる。立地する自治体に掲載可能かどうかを問合せてみると良いだろう。

ただし、掲載されている物件を見ると賃料は5万円以下が多く、とりあえず、固定資産税などが払えれば、住宅の劣化を防げれば良しという程度の貸し方になっているようだ。

物件によっては残置物もそのままで借り手を募集しているようで、貸す側としては楽だが、それで借り手がつくものかどうか。本気で貸したいなら自治体担当者にどの程度借り手が現れているのか、現われているとしたらどんな物件が借りられているのかを質問、多少なりとも貸しやすくする努力はしてみても良いのではなかろうか。

地元に不動産会社がある場合には賃貸を扱っていそうな店舗を訪問、扱ってもらえるかどうか、相場はいくらくらいかなどを聞いてみる手がある。ここで大事なのは現時点で取り扱っている物件の賃料より、これまでに決まった賃料である。

地方では変な人に貸したくないがために賃料を高めに設定、それをハードルにしていることがある。また、かつて栄えていた地域の場合には安くしてまで貸したくない、借り手がつかなくても困らないという例もある。そのため、現状で出ている賃料がイコール借りてもらえる賃料でないことも十分あり得る。貸したいなら、借りてもらえる賃料を考える必要があるのは当然だろう。

また、前述した通り、仲介手数料の安い物件はあまり熱心に扱ってもらえないことがあるので、その点も注意しておきたい。

◎移住関連のセクションに当たってみる手も

もうひとつ、地方で当たってみる価値があるのは役所の移住関連セクション、あるいはそうした業務を受託している民間の団体などである。移住には住宅が必要だが、それが足りていない地域は多く、特に賃貸住宅は常に不足している。賃貸住宅として移住希望者などに貸したいという話であれば耳を傾けてもらえる可能性はある。

ただし、役所絡みの仕事は進展が遅かったり、予算がなかったり、さまざまな謎ルールがあったりとスムーズにいかないこともある。現場ではぜひという話が徐々に立ち消えていくこともあるので、過度に期待せず、慎重にじりじりと進めていく必要がある。

同様に地域の活性化に取り組む団体などに当たってみるという手もある。ただし、いずれの場合も大きな収益を上げることを前提とするのは難しい。それよりも空き家バンク利用時同様、出費を抑えて維持するために使ってもらう手段と考えるのが良いだろう。

もちろん、活動の中で収益が上がるようになれば多少賃料を頂けるようになるかもしれないが、最初からは難しいと思っておこう。

◎市場があれば一戸建ては貸しやすい

都市近郊の立地などで賃貸市場が成立しており、かつ住宅の状況がそれほど悪くない場合には多少の手を入れる程度で貸せる可能性がある。わざわざ、賃貸用に建てることがないため、賃貸市場において一戸建ては非常に数が少ない。

一方で子どもがいる、ペットを飼いたい、隣に気を遣わずに済むなどで一戸建てを希望する人は多く、戸建て賃貸は妥当な賃料設定であれば借りてもらいやすい。集合住宅と違い、一戸建て賃貸居住者は自分で住宅の手入れをしてくれることが多く、居住年数も長期に及ぶ可能性があり、見つかりさえすれば優良な店子になってもらえるだろう。

都心以外の場合、駐車場は必須という言い方をする不動産会社もあるが、あったほうが貸しやすいのは確かだが、無くても近隣に駐車場があれば貸せるのでそれほど気にすることはない。もちろん、1台以上2台分などあればかなり有利ではある。

◎手を入れて貸す場合にはカリアゲの検討も

市場はあり、貸せるだろうと思われるが、住宅の状況が良くないという場合に借りてもらうためには住宅に手を入れる必要がある。その場合にはいきなり手を入れるのではなく、そもそもいくらで貸せるのか、また、一戸建てそのままではなく、分割して貸す、シェアハウスなどにして貸すなどの手はないのかなど、費用と賃料、貸し方の問題をあらかじめ考えておくと無駄がない。

住宅に手を入れる場合、多くの人はどうしても自分が住むという観点で考えてしまい、過度に手を入れてしまう。だが、賃貸住宅として貸す場合には必ずしも所有者にとってのベストが必要なわけではなく、メンテナンスのしやすさや汚れにくさが必要なこともある。もちろん、逆にこの程度の汚れなら大丈夫だと放置、それが嫌われて決まらないこともある。

そうしたことを防ぐためにはまず、信頼できる不動産会社を探して相談してみること。賃料から逆算、いくらまでなら掛けられるか、どのような改修を行えば借りてもらえるか、賃料を上げられるかなどを考えてから改修を行えば無理なく回収もできるはずである。

また、要件的に該当するのであれば、本サイト・カリアゲの利用を検討してみるのもお勧めだ。改修費用を負担することなく、ニーズに合わせた改修をしてもらえるので、素人が無駄に投資をするリスクがなくなる。もちろん、費用回収までの一定期間の賃料は安く設定されるが、その期間が終われば改修された、借りてもらいやすい住宅として返ってくる。

◎知り合いに貸すというやり方も

ここまで不動産会社などプロを介した貸し方をご紹介してきたが、これからは自分で直接知り合いに貸すと言うやり方もあるのではないかと考えている。身近にいくつか事例が出てきているのだ。

たとえばTさんは23区内にある一戸建てを固定資産税ほどの賃料で友人Yさんの親戚から借りている。居住者のおばあさんは施設に入っており、今はまだ元気だが、戻ってくることはほぼあり得ない。その間、その家をどうするか。

考えていた時に、たまたま、Tさんが部屋探しをしており、期限があること、残置物があることを理解した上であれば安価で貸すよと提案。それに納得したTさんが入居することになった。

Yさんからすると残置物を処分してもらえ、家の劣化が防げ、税金の持ち出しがなくて済むことになり、相続があった時には返還される。Tさんからすると新たに自分で賃貸借契約するよりも安く、広い住宅を借りられている。入居までには残置物処理、改修にいくらか費用が掛かったが、賃料の安さを考えれば相殺される。どちらにとっても損はない。

ちなみに個人間の貸し借りは、それが業となっていない限りにおいては自分たちで自由にできる。ただし、何かあった時のためにある程度はルールを決める、契約を交わしておくほうが安全かもしれない。

今の時代であれば近くの友人だけでなく、友人の友人くらいまで幅を広げて声をかけてみる、近隣の知り合いに聞いてみるなどの手もあり得る。売却する場合にも意外にご近所さんが買ってくれるという話を書いたが、賃貸でも同じことが言えるのである。

ひとつ、いずれ自分が住みたいと思っている場合には一般的な賃貸借契約ではなく、期間満了後は確実に返還される定期借家契約にしておくことをお勧めする。地方では定期借家契約に及び腰の不動産会社も少なくないので、その点も覚えておくと良いだろう。

ライター : 中川寛子(なかがわ・ひろこ)