空き家オーナーになりそうな人がまずやるべき2つのこと

 何事もうまく行かせるためには事前準備は必要だ。しかも、相続はいつの日になるかは分からないが、不動産その他の財産がある家庭には確実に起こる。あらかじめ、できることはやっておきたい。

◎人間関係の整理

 まず、取り組みたいのは人間関係の整理だ。整理というと冷たい響きがあるが、分かりやすくいえば誰が関係者で、誰がどのような意思を持っているかを整理しておくということ。

 実際に空き家の所有者になって売りたい、貸したいとなった時に自分一人で決断できるのか、それとも誰かと協議する必要があるのかをあらかじめ把握しておくことと考えれば分かりやすい。

親の意向と同時に相続内容を把握

 まずは親の意向。これについては不動産のみならず、それ以外の財産についての意向、状況も聞いておきたいところ。

 最近、負担になる不動産は相続したくないと相続放棄が増えているが、相続放棄は不動産は相続したくないが、現金は相続するというやり方ができない。相続財産全体を見て検討する必要があるわけで、そのためには早めに情報を収集しておく必要がある。

 ちょっと脱線するが、親の財産の把握は空き家対策だけでなく、認知症対策という面もある。我が家の場合、母が全財産をコントロールしており、父は通帳、印鑑がどこにあるかも分からない状態だった。

 そんな中、母に認知症の兆候が見られたため、全財産をリストアップ、長期保有の金融商品は現金化することにし、近くに住む妹たちがその管理に当たる仕組みとした。それによって親の財産は適切に管理され、親たちの入院その他に支出することができた。認知症が進んでからでは金融商品、不動産などの財産処分ができなくなることがあるので、懸念がある場合には早め、早めに手を打つことが大事である。

 本題に戻ろう。家の今後について親の意向を聞いたからといってそれに従うかどうかは別問題という点も指摘しておこう。いくら家を残し、使って欲しいといっても自分あるいは兄弟姉妹に郷里に帰る予定がないなら、使いようがない。地域のために使って欲しいなどと意向ならそれに沿った動きはできるかもしれない。だが、それも状況次第。誰の、どの意向を尊重するか、そのあたりはその家族、個人の考え方である。

 これまで何人か、親が残して欲しいと要望した住宅を残すために経済的に無理をしたり、行き詰った例を見てきた。以前に比べれば空き家の活用は進んではいるが、だからといって簡単になったというわけではない。無理はしないことである。

 また、親の財産について聞くのは憚られるという家庭、人もいる。そんな場合は無理せず、聞ける状況、チャンスがあるなら確認しておき、合わせて自分の要望も伝えておきたい。

 

兄弟姉妹とその配偶者の意向もポイント

 兄弟姉妹がおらず、一人で相続することになるなら良いが、兄弟姉妹がいる場合には彼ら彼女らの意向も早めに確認しておこう。誰か、実家を使いたい人がいれば空き家にせずに済む。

 注意しておきたいのは意見が割れた場合などに問題を先送りしようと、とりあえず共有にするという手。確かに時間は稼げるが、その分、いつかやろうと先送りが続きがちで、結果、住宅が傷んで使えなくなったり、伸ばしている間に共有者の間に相続が起きて相続人が増加、収拾がつかなくなるなどの事態に繋がることが多い。

 もうひとつ、兄弟姉妹が相続で揉める場合はその多くが配偶者の意見に寄るところが大きい。このあたりは不公平感が出ないよう、最初から配偶者も含めて全員で話をするなどの配慮が必要かもしれない。

地方では親族の意見が無視できないことも

 兄弟姉妹以外では親族、近隣の人達の意向が大事である場合もある。都市では本家分家や親族の誰やらの意向が大事といった力関係を意識することはほとんどないだろうが、地方ではそのあたりを無視できないこともある。

 地方の不動産取引では契約直前に売主から契約を破棄するケースがよくあるのだが、その多くが地元にいる親族の反対が原因。不動産を売るなんて世間体が悪い、先祖代々の土地を売るのは許さないなどという意見を持っている人もいるので、今後も付き合い続けるつもりがあるなら、ある程度は意見を聞く必要がある場合もある。

 といっても、誰やらの意見には必ず従うべきという意味ではない。そうした関係があることが踏まえた上で自分たちがどうしたいのか、それを実現するためにはどういう手があるのかを考える必要があるということである。

買ってくれる人候補トップはご近所さん

 近隣の人たちは直接の関係者ではないものの、地方では不動産を買ってくれる人候補のトップはご近所さんである。付き合いの深さは考えるにしても、できるだけ仲良く付き合っておいたほうが良い。

 時々、親の代で近所との付き合いがこじれて修復しにくくなっていたというケースを聞くが、代変わりは修復のチャンスでもある。買ってもらう以外にも、仲良くしておけばちょっとした管理などが依頼できることもある。相手にもよるが、うまい付き合いをしたいものである。

 

◎建物関係の情報の整理

 続いては建物関係の情報の整理である。まずは必要な書類が揃っているかどうか。主なものとしては

・土地・建物の登記済証(権利証)あるいは登記識別情報

・固定資産税や都市計画税など税金の納付書の最新のもの

・建築確認通知書・検査済証

・測量図・建物図面・建築協定書

などが挙げられるが、建物が古くなればなるほど全てが揃っていることは少なくなるので無ければダメというわけではない。

 また、購入時に受け取った書類、パンフレットなどが残っているようであればそれもまとめておこう。

登記事項証明書取得を試してみよう

 オンラインで登記事項証明書を取得するのも有効だ。これはかつては紙の原本で保管されていたことから取得する際には登記簿謄本と呼ばれていたもので、2008年からデータ化されたことで現在は登記事項証明書と呼ばれる。

 データ化されたことで管轄外の法務局からでも交付が可能になり、現在はオンラインで夜9時まで利用可能。来庁せず、郵送受け取りにすれば自分は動かなくても良い。しかも500円と安価で取得できる。

 ひとつ、注意したいのは住居表示と登記上の地番・家屋番号が異なる場合があること。これについては法務局に住居表示から地番を教えて欲しいと問い合わせるのがもっとも手軽なやり方。毎年所有者宛てに送付されてくる固定資産税課税明細書にも記載されているのでそこで確認するという手もある。

未登記があると売却が難しくなることも

 登記事項証明書を取得することでいくつか分かることがある。ひとつは登記が更新されているかどうか。2024年4月1日から義務化されるものの、それまでは相続登記は任意。そのため、相続時に登記されず、何代か前の人の所有になっている例もあり、この状態のままでは売却は難しい。古い建物の場合には現金で購入、そのまま、登記しなかったというケースもある。

 また、登記事項証明書、固定資産評価証明書それぞれに記載の面積を比べることで増築未登記など建物の登記の不備も分かる。増築については親、家族、親族などが覚えていることもあるはずなので一度確認してみたい。

特に増築によって建蔽率、容積率をオーバーしている場合には違法建築となり、場合によっては行政処分を受けることもあり得るので要注意だ。

他人の目で建物をチェック

 建物の状態については他人の目を入れるというワンクッションを入れておくと売る、貸す際の参考になる。そこに住んでいた人間の目にはごく普通、それほど汚損していないように見えても、初めてその住宅を見る他人の目は厳しく、それはまた買う人、借りる人の目でもある。

 賃貸住宅に住んだことのある若い女性に意見を求めておくと、売る、貸す際にどこに手を入れる必要があるか、シビアな意見がもらえるのではないかと思う。

ライター : 中川寛子(なかがわ・ひろこ)