東京の郊外空き家、 大型空き家の未来を予測、妄想する
東京R不動産でこの20年間、不動産として商品になる前の空き家の状態から市場を見てきた千葉敬介さんにカリアゲの福井信行が聞いた。お題は2つ。これから東京の、特に郊外の空き家、そして集合住宅も含めた大型空き家がどうなるか、どう考えれば良いか。解決策はあるのだろうか。
この20年間、仕事上で大きく変わったことはなんでしょう。
意識が都心から離れつつあるという点です。もちろん、仲介だけならどこでも手掛けますし、都心のプロジェクトもやらないことはありませんが限定的。知恵、デザインを求められないとつまらないし、困っていないところには出番はない。その意味でちょっと人口が減っているところのほうが面白いと感じています。
言葉を変えると東京R不動産のメディアを使えば容易に仲介できるところ=都心で、知恵、デザインがいるところ=郊外という解釈で良いですか? 東京近郊、オールドニュータウン的な場所に面白さを感じているということで。
そうですね、社内では都心=山手線内という感覚なのですが、世の中の一般的な言葉としての都心ということではぎりぎりで三鷹くらいでしょうか。郊外は知恵やデザインなどの手を入れたら価値が上がるところということで考えています。
ただ、郊外だと手を入れたくても建物の規模が大きすぎて改修しても割に合わないケースが増えています。
たとえば、横浜で50年前に開発された50坪、バブル時に1億円、今は3000万円以下というような物件の場合、上物が大きすぎて改修するには相当な投資が必要です。その一方で賃料の㎡単価はそれほど高くなく、回収できない。空き家をなんとかしたいと相談されてもどうしようもないケースがあります。こうしたケースにはどう対処されていますか。
郊外空き家の解決法と地元工務店
答えになっているかどうか分かりませんが、ひとつ、地域工務店に注目する手があるのではないかと考えています。規模が大きくて改修費が嵩む、でも、賃料はそれほど高くはできなくて福井さんのところに持っていったら怒られそうな物件でも地域密着、面で収支を考えている、自分たちで施工している工務店さんならできる可能性があります。
東村山市の相羽建設さんとお付き合いがあるのですが、ここは建設はもちろん、買取、公園の管理などもしている地元密着の会社。市にも協力いただき、一緒に空き家セミナーなどを開いており、いずれはカリアゲもやりたいと。不動産部門がなく、古い家を買い取って欲しいなどと要望されても対応できない工務店と連携、互いの強みを生かして売買を手がけるなど展開はありそうです。
問題は工務店さんの中には不動産会社に対して警戒の念を抱いている会社が多いこと。相羽建設さんが他の工務店さんに弊社を紹介する時には必ず、「不動産会社にはネガティブな印象があるでしょ、でも、この人達は違いますよ」とおっしゃる。それ以外の紹介無の場合にはまず、会ってもらえません。
分かります。ブルースタジオの大島芳彦さんと対談した時にリノベーションをやっている人は不動産、工務店の仕事の両方を分かっている人が多いものの、世の中全般では両方分かる人は少ない、そこは融合していたほうがやりやすいという話が出ました。
16号外側の大型空き家に陽の目は当たるか
郊外空き家でいうと、今後の人の流れの変化に期待するところがあります。最近、積極的賃貸派が増えていますし、市況として中古が増えている、ニュータウンの大型一戸建てが空いているという背景があります。
そこでカップルなら都心で20万円半ばの賃料で借りられるとしても子どもが2人になると都心では物件がない、高い。そこで16号線より外側、あたりに目を向けるという循環ができてきたら、その流れで郊外の空き家の利用が進むのではないかと考えています。
団塊世代が後期高齢者になるこれから10年、この時期が重要なフェースと思っており、どうしたらソフトランディングできるか。うまくいけば家を持っている人にも、借りたい人にもハッピーな解決に繋がるのではないかと思っているのですが。
東側エリアの町工場に注目
郊外以外では都心の東側、継続的に出ている町工場の空き物件に注目しています。土壌汚染などの懸念もあって売りにくいため、賃貸で回すのが有効。チャンスではないかと考えています。
荒川区の商店街沿いの店舗付き住宅を2階を住居に、1階をアトリエになどといったパターンですね。住宅だけではないので賃料は少し高めに設定できますし、競合もまだ少なく、ニーズもあります。
首都圏の東側エリアにはそうした建物が多く、その点に注目して活用を呼び掛けるパンフレットを作りました。荒川区では役所の経営関係の担当者が持って町工場を回り、配布しています。それ以外ではまちのプレイヤーみたいな人が配ってくれると効果が出てきやすいですね。
過去には定借で3年だけ、しかも建物の半分、1階だけを改装、2階はそのままで貸すというやり方をしたことがあります。絵本作家と工事事業者さんのご夫婦で2階は絵具使い放題という使い方をされていました。うまく、対象者と物件がはまれば町工場は面白いだろうと思います。
しばらく貸して解体費あるいは建替え費用を稼ぐという手もありますね。カリアゲも6年とか、8年貸して返還された後もしばらく所有者が回してくれば建替えなり、除去なりの費用に充てられるはずなのですが、どうも、そのまま使う人が多そう。ずっと使うことを想定しているばかりではないのですが……。
RC造の大型空き家のこれから
もうひとつ、今、気になっているのは空き家の大型化。地方で放置されている廃旅館を見ると、これをどうにかできる人はいないだろうと思いますし、今後の大きな課題になってくるのではないかと。木造だとかかっても解体費は200万円くらいで済みますが、RCだと半端ない額。何か手はないものでしょうか。
大宮で再開発前の暫定利用で郵政宿舎のリノベーションをやっていますよね、ああいうものをもっとやるつもりなのかと思っていました。
集合住宅は権利関係が複雑で戸建てのようにシンプルにはいきません。過去に30戸中10戸を地主さんから借り上げたことがあったのですが、そうなると借り上げているだけなのに管理しているかのように思われ、他の住民にいろいろ要求されるような雰囲気になってしまったことがあります。
集合住宅を借り上げて欲しいという話は増えているのですが、同じ建物内に住んでいる人などとのコミュニケーションコストが嵩むこともあり、何かソリューションがないか、考えています。
建て替えができないとするとカリアゲで延命、貸す手は有効。ニーズは増えるものの社会課題として大変という状態ですね。
複雑な権利関係を買い取ってまとめていくという手はあると思いますが、その手は持久戦。どんな人が住んでいるかにもよりますが、どっちが先に死ぬかみたいなところもあり、あまり効率的とはいえません。
地方では若い人達が東京に出て行ってしまうという問題を抱えており、移住を希望する人には借りて住む住宅がないという問題があります。それを考えるとセーフティネットではない、そうした人たちが住める公営住宅が必要なのではないかと思います。
といっても新たに建てるのは難しく、市場原理で考えるとペイしないところがあるかもしれない。それでも人に来てもらう、留まってもらうためには住宅政策として国、自治体がお金を出すこともあり得るのではないかと思います。人が減る時代ですから、買う人は減るでしょうし、これまで以上に賃貸の重要度は増すはず。
カリアゲの仕組みを使って全国の自治体が使われていない、空き家になった集合住宅を再生して賃貸するというやり方があり得るかもしれません。
18年前にリノベーションを始めた時にはこんなに古い建物を直してもと言われたものです。その当時は請負で仕事をしていましたが、自分たちで投資をしてカリアゲを開始。今は直せば貸せることまでは分かりました。
これからは次の一歩の問題、自分たちだけでは手がつけられない大型物件をどうするかに直面しています。
国や自治体も含め、大きな資本と組んで1棟購入、カリアゲで直すということを考えても良い時代なのではないか、そんなことを考えます。これまで以上の大きな空き家はこれまでの考えでは解決不能。発想を切り替える必要もあるかもしれません。
ライター : 中川寛子(なかがわ・ひろこ)